祝婚歌

二人が睦まじくいるためには
愚かでいるほうがいい
立派すぎないほうがいい

立派すぎることは
長持ちしないことだと
気付いているほうがいい


完璧を目指さないほうがいい
完璧なんて
不自然なことだと
うそぶいているほうがいい


二人のうちどちらかかが
ふざけているほうがいい
ずっこけているほうがいい


互いに非難することがあっても
非難できる資格があったかどうか あとで
疑わしくなるほうがいい


正しいこと言うときは
少しひかえめにするほうがいい
正しいことを言うときは
相手を傷つけやすいものだと
気付いているほうがいい


立派でありたいとか
正しくありたいとかいう
無理な緊張には色目を使わず


ゆったり 豊かに
光を浴びている方がいい


健康で風に吹かれながら
生きていることのなつかしさに
ふと胸が熱くなる


そんな日があってもいい



そしてなぜ胸が熱くなるのか




黙っていても





二人には分かるので  あってほしい


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いつか書き留めておかなければと思っていた歌。
N先生が贈ってくれた歌。
吉野弘さんの「祝婚歌」。
そうか今日が、これを書く日だったか。



[写真]

旅をするなら、感動的な景色が見たいと
やっぱり思う。
でも結局覚えているのは
心に残るのは
残していたいのは


視覚的な感動より
身体が感じた気持ちよさ。


炎天下に
はっきりとした地図も持たず
必死に自転車こいで
やっと目的地に近づいたときの達成感とか


目的地を前に
この上なく心地良さそうな木陰を見つけた嬉しさとか


その木陰で飲んだオレンジジュースの味とか


裸足になった解放感とか


田んぼからこちらに向かって吹いてくる風の心地よさとか。


それでも目で見て覚えていたいと思ったのは
田んぼの上に風の通り道をずっと見ていたことで


ああ 世の中には
こんなにたくさんの
風が吹いているんだと思った。


わたしは世の中に生まれている風の
何万分の一だか何億分の一だかくらいを
自分の体に感じて心地良さを味わうわけなんだけれど、
わたしが感じようと
感じなかろうと
風はいつでも どこかで 生まれて
どこかに向かって
吹いてるんだと思った。






島根県 出西窯を目前にして木陰で休むの図)