南極の氷の味とシーカヤック  

南極の氷に梅酒を注ぎ入れると、
氷の中に閉じ込められていた1億何千万年前だかの空気がはじけて、
ぱち ぱち ぱち ぱち と小さな音を出す。
目を閉じて、じいっと聞き入ってしまう不思議の音。
うそのような、本当の話。

姿勢を正して、
遠くを見る。
海の上を、なぜるようにオールをかく。
久しぶりのシーカヤックは、
最初くるくる動いて安定をせず、
びくびくしてしまって怖かった。
ひいちゃんに遠くを見てと声をかけられて、
ああそうかと思い出す。
遠くを見たら、
向こう側に鳥居のある島が見えた。
ゆったりした気持ちになって漕ぎ出すと
必死にならなくても静かに舟は進む。
舟が自分のからだの一部のように感じられるとき、
カヤックはとても楽しいものだと思ったりする。
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浜辺にはいくつもの種類のカヤックが並んで、
家族で、友達同士で、おじさま同士で、
かわるがわる海に漕ぎ出しては帰ってくる。
ビーチに戻るとサザエやらとうきびやら塩釜の鶏やらが
次々に出来上がって、思い思いほおばる。
静かで和やかな活気に満ちた、葉山の海の話。
《写真は、本当の、南極の氷。ぷつぷつの空気の気泡が見えます。》